書名に偽りなし!『最高のコーチは、教えない。』の感想

最高のコーチは、教えない。

こんにちは!

バドミントン情報を届けるブログ「バドミントン・アーカイブ」の管理人スカラー(@badminton_crow)です。

先日、とてもおもしろい本に出会ったので(吉井理人『最高のコーチは、教えない』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年)、感想を書きつつ内容を紹介しようと思う。

日本のスポーツやビジネスの現場における指導者や上司などが、あまりにも陥りがちな問題点と解決策について、一流のプロ野球コーチが理論と経験の両面から解説してくれている。

優れたチームとはどういうものか?あなたが1人でも誰かのマネジメントに携わっている人ならば、読んで絶対に損しない…と断言したいぐらいのいい内容でした。

著者と本書の内容について

最高のコーチは、教えない。

この本を書いているのは、吉井理人さんというプロ野球チーム(北海道日本ハムファイターズ、ほか)の投手コーチをやっていた人である。

大谷翔平投手やダルビッシュ有投手など、日本を代表する投手のコーチもやっていたことになる。選手としてもプロ野球で活躍し、アメリカに渡ってメジャーリーグにも挑戦した。投手コーチを一度は退いたあと、筑波大学大学院でコーチングを学び、再び現場に戻ってきたキャリアの持ち主でもある。

この本は、吉井理人さんが培ってきた経験と理論をもとに「コーチング」理論とその実践方法について書かれている。また、本書の執筆においての著者の問題意識は以下のとおりである。

本書のタイトル『最高のコーチは教えない』には、「指導者=教える人」という常識を覆さないと、メンバーの能力を最大限に発揮させることはできない、という思いが込められている。(13頁)

「教えない」指導者とは

「指導者=教える人」という常識を覆そうという試みは、本書の至る所で見つけることができる。

コーチのアドバイスは、本来、選手にとっては邪魔なものである。 だからこそ、コーチは自分の経験に基づいた言葉だけでアドバイスするのは避けるべきだ。選手の言葉の感覚をしっかりとつかみ、その感覚でアドバイスしてあげなければならない。

わたしが母校の練習に行って高校生の相手などをしていると、ゲームのあとにアドバイスを求められることがある。

なんだかそれっぽいアドバイスを出してはみるものの、精神的にも技術的にもかなりのレベルで成熟したプレーヤーを相手にした場合、わたしは特に困っていた。

成熟したプレーヤーの場合はプライドというか自尊心も持っているので、なおさら聞き入れてもらえていないような気がしていた。

また、高校生にもなるとプレースタイルも様々だ。たとえば、わたしのようなハードヒッター・後衛キャラの男子選手の目線で見て、テクニック派・前衛キャラの女子選手にアドバイスを出すのはちょっと難しい。

日本の野球界の場合は、自分を投影して型にはめようとする指導者が多いと著者は言う(これはもしかすると、バドミントン界でも同じかもしれない)。

プロ野球界におけるコーチと選手の関係は、これまで「師弟関係」が主流だった。しかし、そうした指導はコーチのミニチュアを再生産するにすぎない。 選手が持っていたせっかくの個性が消され、本来持っていたはずの本当の力は出てこない。(太字加工は引用者による)

自分のミニチュアを再生産するにすぎないという警句は、全指導者が耳の穴をかっぽじって聞いとかなければいけない言葉だろう。コーチの仕事は「教える」ことではなくて「考えさせる」ことなのだと、著者は断ずる。

コーチの仕事は、選手が自分で考え、課題を設定し、自分自身で能力を高められるように導くことだ。

その1つとして本書の中で紹介されていたのが「振り返り」だ。新聞記者やインタビュアーのように質問に徹する人を1人設定し、本人に振り返らせるのが目的なのだと著者は言う。

その役目をコーチが担っていくのもいいけれど、とにかく絶対に答えを言ってはいけないんだそうだ。

「教える」ことが必要な人もいる

一方で、その世界でやっていくための技術的な「指導行為」が必要な人もたくさんいる。プレーの技術が集団の中で明らかに未熟であるプロ1年目の選手など(地域のバドミントンクラブなら、入会したばかりの初心者など)が対象だ。

著者は、そういう人たちに対する「指導行為」の必要性を否定しているわけではない。プレーヤーの成熟度合いによっては「指導行為」も効果的なのだと指摘する。

では、どういう人には「教える」べきであり、どういう人には「教える」べきでないのだろうか? 本書では著者が2つの軸を判断基準として提示しながら、図式的にわかりやすく説明してくれている(スポーツコーチング型PMモデル)。

精神的にも技術的にも成熟した高校生プレーヤーに対して、どう接すればいいのか悩んでいたわたしは、本書の中で手がかりをようやく見つけることができた。

わたしは「教える」べきでない人に対して「教えよう(指導行為をしよう)」としていたから苦しんでいたのか…と、一気に視界が開けたのである。

教えないならば、わたしはその高校生プレーヤーに何をすべきか?…それは本書の中で著者がくり返し説いているので迷うことはなかった。

コーチング技術の基礎を学べる

吉井理人さんは現場のコーチを退いたあと、筑波大学大学院で一度コーチングを学んでいる。第一線での自らの経験とアカデミックな知識との両方に裏打ちされた言葉は、かなり説得力がある。

自分の狭い経験だけを元に「サンプル数:1」で語っている内容ではないため、わたしとしては信頼して本書の内容を受け入れることができた。

「観察」「質問」「代行」というコーチングの基礎となる考え方を紹介してくれるので、参考書・副読本的な使い方も可能だろう(※教科書的な使い方は難しいかもしれない)。

  • 観察:相手のことを知る
  • 質問:相手に話させる
  • 代行:相手になったつもりで考える

一瞥すればわかる通り、観察も、質問も、代行も、行為主体は「相手」すなわちプレーヤー本人であることがわかる。プレーヤーとコーチは師弟関係ではなくて、プレーヤーが主役なのである。

この考え方は著者のプロ野球人生の中で一貫しており、わたしも指導者の心構えとして非常に重要なものであると思う(たとえばこの考え方は、バドミントン公認コーチ資格 の勉強をしているときにも登場した)。

主役がプレーヤー本人だからこそ、コーチは自分の経験だけをもとにアドバイスをするのではなくて、本人に課題を設定させることが重要なのだと著者は言う。

周りが一流ばかりのプロ野球の世界では、自分で考えていけなければ成長できないのである。

たとえ名門校出身の選手であっても、課された厳しいメニューをとにかくこなしてきただけで、自分で考えて課題設定をすることができない選手が大勢いるのだそうだ。

これはバドミントン界でも同じことが言えると思う。同じインターハイを制覇した選手でも、実業団に入ってから伸びる人と伸びない人とでは、自分で考えられるかどうかの差は大きいのだろうな…と痛切に感じる。

観察、質問、代行。そしてプレーヤー本人が適切な課題の設定ができるように導いてあげること。これらはコーチとしてやっていくなかでとても重要なことなのだ。

腕を組んで偉そうにふんぞり返るコーチが多い中で、著者のようなコーチがスポーツ界に1人でも多く増えることを願ってやまない…。

おわりに

  • 箕島高校の尾藤監督、近鉄やオリックスの仰木監督、ヤクルトの野村監督、メッツのバレンタイン監督といった、吉井理人さんが影響を受けた指導者の話
  • 「プロフェッショナルであるとは、どういうことか」について、著者の考え方

など、スポーツの指導者にかぎらずプロフェッショナルであるために必要なことが何なのか、学ぶこともできるヒントがたくさんある。

本書はビジネスパーソンもターゲットとなっている。控えめに言ってオススメだ。読まない理由がない。

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